【PMDA承認情報】2025/07/14 医薬品承認一覧
目次
今回の承認では、難治性の悪性腫瘍を対象とした2剤が新たに使用可能となりました。ウェリレグ錠40mgは、化学療法後に増悪した根治切除不能または転移性の腎細胞癌を対象とするHIF-2α阻害薬であり、既存の治療に抵抗性を示した症例への新たな選択肢となります。インレビックカプセル100mgは、骨髄線維症を適応とするJAK阻害薬で、骨髄増殖性腫瘍領域における治療の幅を広げるものです。いずれも腫瘍内科・血液内科領域において実臨床への影響が大きく、薬剤師として作用機序・有害事象プロファイルの把握が求められます。
ウェリレグ錠40mg
一般名: ベルズチファン
申請者: MSD株式会社
承認区分: 新有効成分含有医薬品(劇薬、希少疾病用医薬品)
効能・効果
がん化学療法後に増悪した根治切除不能又は転移性の腎細胞癌
用法・用量: 1日1回120mg(40mg錠×3錠)経口投与。患者の状態により適宜減量。
今回の承認で何が変わったか
ウェリレグは、HIF-2α(低酸素誘導因子2α)阻害薬という、これまでの腎細胞癌(RCC)治療に存在しなかった全く新しい作用機序を持つ経口薬である。
RCCの既存治療では、PD-1/PD-L1阻害剤とVEGFR-TKIの組み合わせが一次治療の標準となっているが、これらの治療後に増悪した患者に対しては、二次治療以降の選択肢はmTOR阻害剤(エベロリムス)などに限られていた。ウェリレグはこのポジションに、全く異なる分子標的を持つ選択肢を加えるものである。
作用機序
散発性の淡明細胞型RCCの90%以上では、VHL遺伝子の変異やエピジェネティックな不活化によりVHL機能が欠損し、HIF-2αが蓄積する。HIF-2αはARNTとヘテロ二量体を形成してDNA上のHREに結合し、血管新生に関わるVEGFA、細胞周期調節に関わるCCND1などの転写を促進することで腫瘍増殖を駆動する。
ベルズチファン(BEL)はHIF-2αのPAS-Bドメインに直接結合し、HIF-2αとARNTのヘテロ二量体形成を阻害する。これにより、VEGFR-TKIがVEGFシグナルを細胞外で遮断するのに対し、BELはその上流に位置するHIF-2αを標的にして腫瘍増殖シグナルを根本的に抑制する。
主要臨床試験(005試験)
PD-1/PD-L1阻害剤およびVEGFR-TKIによる治療歴のある根治切除不能または転移性の淡明細胞型RCC患者を対象に、日本を含む23カ国147施設で実施された国際共同第III相無作為化非盲検非劣性比較試験。BEL群(374例)対エベロリムス(EVE)群(372例)を比較した。
PFS中間解析(2022年11月1日データカットオフ):
| BEL群 | EVE群 | |
|---|---|---|
| 例数 | 374 | 372 |
| PFS中央値 | 5.6カ月 [95%CI: 3.9, 7.0] | 5.6カ月 [95%CI: 4.8, 5.8] |
| ハザード比 | 0.75 [95%CI: 0.63, 0.90]、p=0.00077 |
PFSでエベロリムスに対する統計学的有意な優越性が確認された。
OS第2回中間解析(2023年6月13日データカットオフ):
| BEL群 | EVE群 | |
|---|---|---|
| OS中央値 | 21.4カ月 [95%CI: 18.2, 24.3] | 18.1カ月 [95%CI: 15.8, 21.8] |
| ハザード比 | 0.88 [95%CI: 0.73, 1.07]、p=0.09941 |
OSの統計的有意差は確認されず試験は継続中であるが、中央値で3カ月以上の延長が見られる。
安全性プロファイルと臨床上の注意点
005試験でBEL群において特に注意すべき有害事象は以下のとおりである。
- 貧血(82.8%、Grade 3以上32.5%):HIF-2αはEPO産生を調節するため、その阻害により貧血が高頻度に発現する。休薬・減量の主因となり(休薬至8.6%、減量至3.0%)、モニタリングが必須である。
- 低酸素症(14.5%、重篤7.5%):HIF-2α阻害薬に特有の有害事象であり、エベロリムス群ではほぼ認められない(1.1%)。本薬の作用機序に直結した有害事象であり、特有の管理が求められる。
- 出血・骨折:製造販売後調査においても引き続き検討が必要とされている。
薬物相互作用・特定集団での注意:
- BELの代謝にはCYP2C19(酸化)およびUGT2B17(グルクロン酸抱合)が関与する。CYP2C19 PMおよびUGT2B17 PMの両表現型をもつ患者では曝露量が基準集団の約3〜5倍に達しうる。
- CYP2C19またはUGT2B17阻害剤との併用では曝露量が増加する可能性があり注意が必要。
- BELは弱いCYP3A誘導剤であり、CYP3A基質薬剤(AUCが約40%低下)との併用に注意を要する。
- 中等度以上の肝機能障害患者では曝露量が増加しうるため、減量を考慮しながら慎重に経過観察する。
臨床現場へのインパクト
免疫チェックポイント阻害剤とVEGFR-TKIが標準化されたことで、その後に使用できる薬剤の機序が枯渇しつつある状況下で、HIF-2α阻害というアプローチが加わった意義は大きい。RCCの発癌経路の根幹であるVHL/HIF-2α軸を直接標的とすることで、従来薬との作用点が重複せず、理論的にVEGFR-TKI耐性機序をバイパスできる可能性がある。また経口薬であることから外来での継続投与が可能な点も実臨床での利便性につながる。
一方で、貧血と低酸素症という本薬に特徴的な有害事象の管理体制を整えることが普及の鍵となる。特に低酸素症はHIF-2α阻害薬として初めての承認に伴い経験が蓄積されていない事象であり、施設ごとのモニタリング体制の整備が求められる。
インレビックカプセル100mg(フェドラチニブ)
一般名: フェドラチニブ塩酸塩水和物
申請区分: 新有効成分含有医薬品
効能・効果: 骨髄線維症
用法・用量: フェドラチニブとして1回400mg、1日1回経口投与(適宜減量)
希少疾病用医薬品指定: 令和6年8月(再審査期間10年)
今回の承認で何が変わるか
国内の骨髄線維症(MF)治療におけるJAK阻害剤は、ルキソリチニブ(ジャカビ)、モメロチニブ(オムジャラ)に続き、フェドラチニブが3剤目として加わる。単に選択肢が1つ増えるだけでなく、「ルキソリチニブ抵抗性・不耐容患者」への有効性が臨床試験で示された点が最大の意義である。これまでルキソリチニブ後に有効な次の手が限られていた場面で、新たな治療戦略が生まれる。
作用機序と既存JAK阻害剤との差異
フェドラチニブは米国TargeGen社が創製した低分子JAK2阻害剤。JAK2およびその下流のSTAT等のリン酸化を阻害することでMFの腫瘍増殖を抑制する。
既承認薬との薬理学的な違いとして以下が挙げられる。
- ルキソリチニブ・モメロチニブはJAK2のATP結合部位に結合するのに対し、フェドラチニブはATP結合部位に加えてSTATとの結合部位(基質結合部位)にも結合する。これにより、ルキソリチニブの耐性獲得変異として報告されるJAK2 Y931C・G935R変異を導入した細胞株に対しても、モメロチニブと比較して高い増殖抑制作用を示した(in vitro)。
- モメロチニブはACVR1を介した造血促進作用(貧血改善)を有するが、フェドラチニブおよびルキソリチニブにはその作用は認められない。
主要臨床試験の成績
① JAKARTA試験(海外第III相、プラセボ対照)
対象:脾腫を有する中間-2または高リスクで、JAK2阻害剤による治療歴のないMF患者
主要評価項目(第6サイクル終了時点でSVR35を達成し4週後に確認できた割合):
| フェドラチニブ400mg群 | プラセボ群 | |
|---|---|---|
| SVR35達成率 | 36.5%(96例中35例) | 1.0%(96例中1例) |
| プラセボとの群間差 | 35.4%(97.5%CI: 24.2〜46.7) | — |
p<0.0001と有意な優越性を検証。TSS(全症状スコア)50%以上改善率も400mg群39.6% vs プラセボ群8.2%と、症状面でも明確な差が示された。
② JAKARTA2試験(海外第II相)
対象:脾腫を有する中間リスクまたは高リスクで、ルキソリチニブによる治療に抵抗性または不耐容のMF患者
第6サイクル終了時点のSVR35達成率(PP集団、LOCF法):48.2%(95%CI: 37.1〜59.4、40/83例)
事前の仮説検定は実施されていないが、RUX後患者においても約半数でSVR35が達成されており、機構はこれを有効性の根拠として評価した。
③ MF-003試験(国内第I/II相)
対象:脾腫を有する中間リスクまたは高リスクのMF患者(n=28、フェドラチニブ400mg)
第6サイクル終了時点のSVR35達成率(IRC判定):71.4%(95%CI: 51.3〜86.8、20/28例)
TSS改善率:37.0%
脾臓容積のベースラインからの変化率は平均−48.25%と、顕著な縮小効果が確認された。
安全性プロファイルと特に注意すべき有害事象
JAKARTA試験(400mg群、96例)における主な有害事象の発現率は以下のとおり(プラセボ群と比較)。
| 有害事象 | 400mg群(全Grade) | プラセボ群 |
|---|---|---|
| 下痢 | 70.8% | 15.8% |
| 悪心 | 66.7% | 15.8% |
| 貧血 | 55.2% | 13.7% |
| 嘔吐 | 45.8% | 5.3% |
Grade3以上の有害事象は77.1%に認められ、貧血(44.8%)、血小板減少症(11.5%)が多かった。
特に注意を要する有害事象として機構が明示したもの:
- 脳症(ウェルニッケ脳症を含む):開発中に複数例が認められ、2013年11月にFDAがFull Clinical Holdを発令した経緯がある。チアミン輸送体(THTR)を介するチアミン取り込みへの影響が機序として推測されており、投与前および定期的なチアミン補充、神経症状モニタリングが必須となる。
- 骨髄抑制、感染症、肝機能障害、ぶどう膜炎、出血、膵炎(製造販売後調査での継続検討が必要とされた)、心血管系事象、二次性悪性腫瘍、間質性肺疾患(ILD)
薬物相互作用
フェドラチニブは主にCYP3A4で代謝される。強いCYP3A阻害剤との併用は原則回避。やむを得ず併用する場合は200mgへの減量が推奨される。中止後も一定期間相互作用が持続するため、中止後は段階的な増量(300mg→400mg)が必要。メトホルミンについてはOCT2/MATE1/2-K阻害を介した腎クリアランス低下(約64%)の可能性があり、添付文書での注意喚起が設定されている。
臨床現場へのインパクト
フェドラチニブの承認により、MF治療は以下の流れが現実的になる。
- ルキソリチニブ一次治療 → 抵抗性・不耐容の場合 → フェドラチニブへの切り替え(JAKARTA2試験の根拠)
- 貧血が顕著な患者にはACVR1阻害作用を持つモメロチニブが優位な場面も残る
一方、ウェルニッケ脳症リスクは他のJAK阻害剤にはない固有の懸念事項であり、投与前からのチアミン補充と神経症状の継続的な評価が管理上の鍵となる。造血器悪性腫瘍の治療経験を持つ専門医が適切なリスク管理を行う体制のもとで使用する薬剤と位置づけられる。