【PMDA承認情報】2026/06/22 医薬品承認一覧
目次
| 製品名 | 承認区分 | 効能効果 | PMDA |
|---|---|---|---|
| ジャスケイド錠9 mg | 承認 | 同 錠18 mg【承認】(2026年5月承認分)特発性肺線維症進行性肺線維症 | 詳細 |
2026年5月承認分では、ジャスケイド錠9 mg・18 mg(一般名:ベルフルモキシブ)が特発性肺線維症(IPF)および進行性肺線維症(PPF)を対象に新たに承認されました。本剤はオートタキシン阻害薬という新規作用機序を持ち、既存の抗線維化薬(ピルフェニドン・ニンテダニブ)とは異なる標的に作用します。IPFに加えてPPFにも適応を持つ点が臨床上の重要な変化であり、治療選択肢の広がりが期待されます。用量は9 mgと18 mgの2規格が設定されており、段階的な用量調整への対応が可能です。
ジャスケイド錠9 mg・18 mg(ネランドミラスト)
承認区分: 新有効成分含有医薬品(希少疾病用医薬品)
効能・効果: 特発性肺線維症、進行性肺線維症
用法・用量: 通常、成人には1回18mgを1日2回経口投与。患者の忍容性に応じて1回9mg 1日2回に減量可
再審査期間: 10年 / 劇薬
臨床的背景と今回の承認が意味するもの
ネランドミラストはBoehringer Ingelheimが創製した、PDE(ホスホジエステラーゼ)4B選択的阻害薬である。従来の抗線維化薬(ニンテダニブ・ピルフェニドン)とは異なる作用機序をもつ初の低分子薬として、IPFおよびPPF双方に対して承認された。
IPFでは既存の抗線維化薬が消化器毒性を主因として投与1年以内の中止率が高く、長期継続に耐えられる新たな選択肢が強く求められていた。一方、PPF(進行性肺線維症)はIPF以外のILDにおいて線維化が進行する病態であり、2022年の国際呼吸器学会合同ガイドラインで新たに定義・命名された比較的新しい疾患概念である。国内推定患者数は5万人弱とされ、ニンテダニブが治療選択肢として存在するものの忍容性に問題があることが指摘されてきた。
今回の承認における最大の変化点は2点ある。 第一に、IPFにおいて既存薬とは全く異なる作用機序の経口薬が加わること。第二に、PPFに対して新規作用機序による治療選択肢が確立されることである。PPFに対応した治療薬として「PDE4B阻害」という新たな経路が臨床の場に登場した意義は大きい。
作用機序
PDE4Bは肺線維芽細胞に高発現しており、二次メッセンジャーであるcAMPを分解する酵素である。ネランドミラストはPDE4Bを選択的に阻害することでcAMP濃度を上昇させ、肺の線維化および炎症を抑制する。
in vitro試験では、IPF患者由来の初代培養肺線維芽細胞においてTGF-β誘導性の筋線維芽細胞への形質転換(FMT)を濃度依存的に抑制し、ニンテダニブとの相加効果も示された。また、嘔吐・悪心への関与が知られるPDE4Dへの阻害活性は相対的に弱く、非選択的PDE4阻害薬と比較して良好な消化管忍容性が期待されている。
主要臨床試験
第II相試験(1305-0013試験)── IPF患者対象
日本・ドイツ・カナダ等22か国で実施したプラセボ対照二重盲検試験(本剤18mg群97例・プラセボ群50例、12週間投与)。主要評価項目である投与12週時のFVCベースラインからの変化量において、抗線維化薬併用集団でプラセボ群との差は+80.4 mL(95%CI: 20.9〜140.0)、非併用集団で+101.7 mL(95%CI: 25.0〜178.4)と、いずれも統計的に有意な差が認められた。
第III相試験(1305-0014試験)── IPF患者対象(承認の主根拠)
日本・米国・フランス等36か国で実施したプラセボ対照二重盲検試験(本剤18mg群392例、本剤9mg群392例、プラセボ群393例)。主要評価項目である投与52週時のFVCベースラインからの変化量を以下に示す。
| 群 | FVC変化量(mL) | プラセボとの差(mL) | p値 |
|---|---|---|---|
| 本剤18mg群 | −114.7 | +68.8(95%CI: 30.3〜107.4) | 0.000625 |
| 本剤9mg群 | −138.6 | +44.9(95%CI: 6.4〜83.3) | 0.0370 |
| プラセボ群 | −183.5 | — | — |
18mg・9mg両用量でプラセボに対する優越性が検証された。日本人部分集団(135例)では、本剤18mg群とプラセボ群の差は+102.0 mL(95%CI: 4.9〜199.0)であり、全体集団と概ね同方向の結果であった。一方、本剤9mg群と日本人プラセボ群の差は−22.7 mL(95%CI: −123.3〜77.9)と明確な有効性は示されず、日本人への適切な用量選択が今後の実臨床で問われる点となりうる。
第III相試験(1305-0023試験)── PPF患者対象
同様のデザインでPPF(PF-ILD)患者を対象に実施(各群393例)。本試験成績がPPFの承認根拠となった。
安全性の要点
主な有害事象は下痢・咳嗽・頭痛・消化不良・悪心などで、消化器症状が中心である。第III相試験(IPF)における投与中止に至る有害事象の発現割合は本剤18mg群15.1%、9mg群12.5%であり、プラセボ群10.9%との差は大きくなかった。
前臨床試験でラット・ミニブタにPDE4阻害に関連した血管障害が認められているが、霊長類では認められておらず、臨床試験での血管炎の報告も限定的であった。市販後の安全性継続調査が承認条件として設定されている。
薬物相互作用と用量調節の要点:
- 強CYP3A阻害薬(イトラコナゾール等)との併用時は本剤の曝露量が約2.2倍上昇するため、1回9mgに減量する
- ビルフェニドンまたは中等度・強力なCYP3A誘導薬との併用では本剤の曝露量が低下(AUC約41〜51%減)するため、1回18mgを維持し減量しない
- 妊婦・妊娠の可能性のある女性への投与は推奨されない。妊娠可能な女性には投与中および最終投与後4日間の避妊が必要
- 重度肝機能障害(Child-Pugh分類C)および末期腎不全(eGFR 15 mL/min/1.73 m²未満)は投与経験なし
まとめ:臨床現場への影響
ジャスケイド錠の承認により生じる主な変化を整理する。
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IPFにおける選択肢の多様化:ニンテダニブ・ピルフェニドンとは異なるPDE4B選択的阻害という機序が加わる。既存薬の消化器毒性で継続困難だった患者や、既存薬との組み合わせ戦略を検討できる患者層の治療選択肢が広がる。
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PPFに対する新規選択肢の確立:2022年に国際ガイドラインで定義されたPPFに対応した薬剤として、ニンテダニブに続く選択肢となる。国内5万人弱と推定される患者群への恩恵が期待される。
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忍容性プロファイルの多様化:PDE4B選択的阻害により、PDE4D関連の催吐作用が相対的に軽減されることが期待されており、既存の抗線維化薬で問題となってきた早期中止の一部を回避できる可能性がある。
ただし、ビルフェニドンとのPK相互作用は複雑であり、両薬剤を管理する際の用量設定には注意が必要である。また日本人データで9mg群の有効性が全体集団より劣る傾向があることから、用量選択の根拠となる情報収集を実臨床でも継続していくことが求められる。