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【大手チェーン薬局向け】2026年調剤報酬改定の経営インパクト|グループ要件・立地減算・DX戦略

はじめに

2026年度調剤報酬改定は、大手チェーン薬局(100店舗以上規模)にとって構造的な転換を迫る改定です。

グループ薬局の判定要件が店舗数から処方箋数に変更され、立地依存減算(-15点)が新設され、門前・敷地内薬局の集中率要件が厳格化されました。大手チェーンが得意としてきた「医療機関隣接×大量処方箋」のビジネスモデルに対して、制度面から明確なメッセージが発せられた形です。

一方で、ベースアップ評価料(4〜8点)は数百店舗規模では巨額の原資となり、医療DXへの投資はスケールメリットが最も効く領域です。

本記事では、改定の全体像を踏まえたうえで、大手チェーン薬局の経営層が意思決定すべきポイントを分析します。

この記事は【2026年調剤報酬改定】薬局が知るべき全変更点を徹底解説の関連記事です。改定内容の全体像はそちらをご覧ください。


グループ要件の変更:店舗数から処方箋数へ

何が変わったのか

従来は「同一グループで300店舗以上」等の店舗数要件で調剤基本料3イ・3ロが適用されていましたが、今回の改定で店舗数による判定が廃止され、グループ全体の処方箋総受付回数のみで判定される方式に変わりました。

大手チェーンへの影響

判定方式旧制度新制度
基準店舗数(300以上等)処方箋総受付回数
基本料3イ24点→25点処方箋数で判定
基本料3ロ19点→20点処方箋数で判定

点数自体は微増(各+1点)ですが、判定基準の変更により、グループ再編や分社化では基本料区分の回避が困難になりました。処方箋数というフロー指標での判定は、事業規模そのものが直接反映される仕組みです。

経営判断への示唆

  • M&Aや店舗統合で処方箋数が増加すると、グループ全体の基本料区分に影響する可能性
  • 逆に、不採算店舗の閉鎖はグループ全体の処方箋数削減となり、基本料区分の改善に寄与する場合がある
  • 処方箋数ベースの判定は、店舗のリストラクチャリングにおいて新たな検討要素となる

立地依存減算のインパクト分析

財務シミュレーション

立地依存減算(-15点)は、大手チェーンの門前・敷地内店舗に集中的に影響します。

300店舗を持つ大手チェーンの試算例:

店舗分類店舗数月平均受付減算額/月/店年間影響額
立地依存減算対象60店舗(20%)2,000枚-30万円-2.16億円
基本料2への転落40店舗(13%)1,900枚-32.3万円-1.55億円
影響なし200店舗(67%)
合計影響-3.71億円

グループ全体で見ると数億円規模のマイナスインパクトが生じ得ます。これは営業利益率に直接影響するため、経営計画の見直しが必要です。

対策の方向性

短期対策(〜2026年6月)

  1. 全店舗の集中率・受付回数を精査し、立地依存減算・基本料転落の該当店舗を特定
  2. 該当店舗で面処方箋の獲得施策を即座に開始(OTC強化、健康相談機能等)
  3. ギリギリの店舗は集中率85%以下への引き下げが可能かを試算

中期対策(2026年〜2027年)

  1. 門前依存度の高い店舗の役割転換計画を策定
  2. 新規出店は面分業エリア・地域密着型を優先する方針への転換
  3. 既存の敷地内・門前店舗の一部撤退・移転も選択肢に

長期的な方向性

今回の改定で明確になったのは、「門前・敷地内薬局への依存は制度リスク」ということです。次回(2028年度)改定でさらに厳格化される可能性を見据え、店舗ポートフォリオの多角化を進めることが経営の安定性に直結します。


ベースアップ評価料:数百店舗の人件費戦略

原資の規模感

大手チェーンにとって、ベースアップ評価料は全社の人件費戦略を左右する規模の原資になります。

300店舗・月合計処方箋300,000枚のチェーンの場合:

時期計算年間原資
2026年6月〜2027年5月300,000枚 × 4点 × 10円 × 12月14.4億円
2027年6月以降300,000枚 × 8点 × 10円 × 12月28.8億円

戦略的な配分設計

14〜28億円規模の原資は、全社の報酬制度を再設計する好機です。

配分モデルの比較

モデル配分方法想定効果リスク
A:一律ベースアップ全従業員の基本給を均等に引き上げ離職率低下、採用力向上差別化なし、コスト固定化
B:職能別配分薬剤師・事務・管理職で差をつける薬剤師の処遇改善による定着事務職のモチベーション低下
C:成果連動型算定実績に応じた店舗別インセンティブ加算算定の動機づけ制度設計・運用の複雑さ
D:ハイブリッド型ベースアップ+成果連動+職能別バランスの取れた処遇改善制度設計に時間がかかる

推奨:D(ハイブリッド型)

  • 基本給の底上げ(60%):全従業員に一定のベースアップを保証
  • 職能別手当の増額(20%):薬剤師の処遇改善で人材確保
  • 算定インセンティブ(20%):在宅・かかりつけの実績に連動する店舗評価

薬剤師採用市場への影響

ベースアップ評価料は業界全体に適用されるため、大手だけが優位になるわけではありません。むしろ、この原資を他社より魅力的な報酬制度の設計に活かせるかが差別化のポイントです。

  • 在宅薬剤師の専門手当を業界水準以上に設定
  • 認定薬剤師資格の取得支援制度と手当の充実
  • 管理薬剤師への明確なキャリアパスの提示

全社横断の医療DX戦略

大手チェーンのDXアドバンテージ

医療DXは大手チェーンが最もスケールメリットを発揮できる領域です。

DX項目個人薬局中小G大手チェーン
電子処方箋の全店導入店舗ごとに対応グループ一括全社一括・ベンダー交渉力
データ分析基盤困難限定的全店舗データの統合分析
AI処方鑑査コスト障壁一部店舗全店舗展開でコスト分散
オンライン服薬指導小規模対応一部店舗専任チーム・全国対応

電子処方箋の全店舗展開

電子的調剤情報連携体制整備加算(月1回8点)の全店舗算定は、大手チェーンにとって最も確実なROIが見込める投資です。

300店舗・月300,000枚の場合:

  • 年間加算収入:8点 × 300,000枚 × 10円 × 12月 = 28.8億円
  • 導入コスト(概算):100万円/店 × 300店舗 = 3億円
  • 投資回収期間:約1.3ヶ月

ベンダーとの大規模契約によるボリュームディスカウントも期待でき、実際の回収はさらに早まる可能性があります。

データドリブン経営への転換

全店舗のデータを統合することで、以下のような分析が可能になります。

分析テーマ活用方法
店舗別算定率ランキングベストプラクティスの特定と水平展開
加算別の未算定分析算定漏れの原因特定と改善
後発品使用割合のトレンド85%未達店舗への重点対策
在宅業務の効率性分析訪問ルートの最適化、担当患者数の適正化
かかりつけ機能の浸透度フォローアップ実施率の店舗間比較

バイオ後続品への対応

バイオ後続品調剤体制加算(50点)は、大手チェーンが組織的に取り組むことで大きな収益につながります。

  • バイオ後続品の品揃えを全店舗で統一
  • 患者への説明ツールを本部主導で開発・配布
  • 処方元医療機関へのバイオ後続品の情報提供をエリアマネージャーが主導

店舗ポートフォリオの最適化

新たな店舗分類と戦略

今回の改定を受けて、全店舗を以下の4カテゴリに再分類し、カテゴリごとに戦略を策定することを推奨します。

カテゴリA:地域拠点店(成長投資対象)

特徴戦略
面分業・低集中率基本料1(47点)+地域支援加算上位を維持
在宅実績あり在宅ハブ機能を強化
かかりつけ実績あり新加算の算定率を最大化
目標加算の最大化、モデル店舗として全社展開の起点

カテゴリB:転換候補店(改革対象)

特徴戦略
門前型だが集中率85%未満面処方箋の獲得を強化し、カテゴリAへの転換を目指す
在宅未実施段階的に在宅業務を開始
目標2年以内にカテゴリAへ移行

カテゴリC:収益維持店(効率化対象)

特徴戦略
門前型・高集中率立地依存減算を受容しつつ、効率で利益を確保
大量処方箋で粗利を確保調剤業務の効率化を徹底
目標コスト最適化、利益率の維持

カテゴリD:再検討店(撤退・統合候補)

特徴戦略
立地依存減算+基本料転落経済性が成り立たない
近隣に自社の別店舗あり統合による効率化が可能
目標撤退・統合・移転の判断を2026年中に

ドミナント戦略の再考

従来の大手チェーンは、特定エリアに集中出店する「ドミナント戦略」を取ることが多くありました。しかし、立地依存減算の導入により、同一エリア内の門前店舗を複数持つことのリスクが増大しています。

今後は以下のようなポートフォリオの再設計が求められます。

  • 門前店舗の統合:近隣の2店舗を1店舗に統合し、面処方箋比率を改善
  • 在宅特化店舗の新設:門前店舗から在宅専門の地域拠点型店舗への転換
  • ドラッグストア併設:OTC販売を強化し、集中率を下げる

地域支援・医薬品供給対応体制加算のグループ戦略

全店舗一律ではなく「層別戦略」を

大手チェーンの場合、全300店舗で同一の加算区分を目指すのは非現実的です。店舗の特性に応じた層別目標を設定しましょう。

対象店舗目標加算店舗数イメージ
第1層在宅実績+地域拠点加算3(67点)30店舗(10%)
第2層地域型+一定の実績加算2(59点)70店舗(23%)
第3層後発品85%達成加算1(27点)120店舗(40%)
第4層供給体制中心加算4(37点)50店舗(17%)
第5層加算未算定基本料のみ30店舗(10%)

後発品使用割合85%の全社推進

大手チェーンでは、本部主導の後発品推進プロジェクトが有効です。

  • 統一在庫リストの策定:全店舗で同一の後発品を採用し、交渉力を強化
  • 先発品固執患者リストの分析:選定療養の自己負担増を説明材料に全社で切り替え推進
  • 処方元医療機関への組織的アプローチ:エリアマネージャーが一般名処方の促進を働きかけ
  • 月次モニタリング:85%未達店舗への改善指導を本部から実施

組織体制の見直し

新たに必要な本部機能

今回の改定で求められる対応は、店舗単位では完結しません。本部に以下の機能を強化または新設することを推奨します。

機能役割担当
報酬分析チーム全店舗の算定シミュレーション・モニタリング経営企画部
在宅推進室在宅業務の全社展開、多職種連携の仕組み化新設または薬事部内
DX推進チーム電子処方箋・データ基盤の全社導入IT部門
人事報酬設計ベースアップ評価料の配分設計人事部
教育研修部門対人業務スキルの全社研修研修部

エリアマネージャーの役割変化

従来のエリアマネージャーは売上管理と人員配置が主な役割でしたが、今回の改定を機に以下の役割を追加することが重要です。

  • 加算算定率のKPI管理:店舗ごとの算定率を追跡し、改善を支援
  • 在宅推進のコーディネート:担当エリア内の在宅医・ケアマネとの関係構築
  • 処方元医療機関との連携:一般名処方の促進、バイオ後続品の情報提供
  • ベストプラクティスの展開:成功店舗の取り組みをエリア内に横展開

経営指標の見直し

従来のKPIから新KPIへ

今回の改定で、大手チェーンが追うべきKPIは大きく変わります。

領域従来のKPI新たに追加すべきKPI
売上処方箋枚数、技術料加算算定率(地域支援・かかりつけ・在宅)
効率処方箋1枚あたりの人件費対人業務1件あたりの加算収入
品質調剤過誤率フォローアップ実施率、有害事象防止件数
成長新規出店数在宅対応店舗数、地域拠点化率
人材薬剤師充足率在宅認定薬剤師数、かかりつけ同意率

投資判断の新たなフレームワーク

新規出店や店舗改装の投資判断にも、改定の方向性を反映する必要があります。

投資判断チェックリスト(新規出店):

  • 面分業が期待できるエリアか?(集中率85%以下を維持できるか)
  • 在宅医療の需要があるエリアか?(高齢者人口比率、在宅医の有無)
  • 立地依存減算の対象にならないか?
  • 地域支援・医薬品供給対応体制加算の上位区分を狙えるか?
  • 後発品使用割合85%が達成可能な処方環境か?

6月施行に向けたエグゼクティブアクションプラン

即時対応(〜2026年3月)

アクション担当期限
全店舗の基本料区分・減算該当の一斉調査経営企画3月第2週
財務インパクトのシミュレーション(最悪/標準/最良シナリオ)経営企画3月第3週
店舗ポートフォリオの4カテゴリ分類経営企画+事業部3月末
ベースアップ評価料の配分方針を取締役会で決定人事+経営3月末

体制整備(2026年4〜5月)

アクション担当期限
電子処方箋の未対応店舗への導入IT部門4月末
かかりつけ機能の算定フロー全社展開薬事部4月末
在宅推進室の立ち上げ・パイロット開始事業部5月
選定療養の患者説明資料を全店舗配布マーケティング5月
エリアマネージャー向け新KPI研修研修部5月

運用・検証(2026年6月〜)

アクション担当頻度
店舗別算定実績のモニタリング経営企画週次
加算算定率の全社レポート経営企画月次
カテゴリD店舗の撤退・統合判断経営会議四半期
次回改定(2028年度)への布石を議論経営戦略半期

まとめ

2026年度調剤報酬改定は、大手チェーン薬局にとって「規模の経済」から「機能の経済」への転換を求める改定です。

テーマ大手チェーンへの示唆
グループ要件の変更分社化では基本料の回避が困難に。処方箋数ベースの新ルールに適応
立地依存減算数億円規模のマイナスインパクト。門前依存ポートフォリオの転換が急務
ベースアップ評価料数十億円の原資を戦略的に配分し、人材の獲得・定着に活用
医療DXスケールメリットを最大限に活かし、全社一括でのROI最大化
地域支援体制加算層別戦略で店舗ごとに最適な加算区分を設定
店舗ポートフォリオ4カテゴリ分類に基づく選択と集中。撤退判断も含む

「数の力」だけでは報われない時代に入りました。数百店舗の組織力を「地域貢献の実績」と「対人業務の品質」に変換できるかが、大手チェーンの次の10年を左右します。


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参考リンク