医療従事者のためのプロンプトエンジニアリング入門
はじめに
ChatGPTやClaudeをはじめとする生成AIは、医療現場でも活用が広がっています。しかし、「使ってみたけどイマイチな回答しか返ってこない」「医療の質問には答えてくれない」という声も少なくありません。
その原因の多くは、プロンプト(AIへの指示文)の書き方にあります。適切なプロンプトを書くことで、AIの回答品質は劇的に向上します。本記事では、医療従事者がすぐに使えるプロンプトエンジニアリングの基本テクニックを紹介します。
プロンプトエンジニアリングとは
プロンプトエンジニアリングとは、AIに対する指示(プロンプト)を工夫することで、望ましい出力を得るための技術です。プログラミングの知識は不要で、自然言語(日本語)で指示を書くだけです。
基本原則
| 原則 | 説明 |
|---|---|
| 具体的に | 曖昧な指示ではなく、具体的な条件や形式を指定する |
| 役割を与える | 「あなたは薬剤師です」のように、AIに専門家の役割を設定する |
| 段階的に | 複雑なタスクは、ステップに分けて指示する |
| 制約を明示 | 「〜しないでください」「〜の範囲で」など、制約条件を明確にする |
| 出力形式を指定 | 「箇条書きで」「表形式で」「300字以内で」など、出力の形式を指定する |
医療現場での活用例
1. 論文要約
医療論文の要約は、生成AIが最も得意とするタスクのひとつです。
基本プロンプト例:
以下の論文のアブストラクトを、薬剤師向けに日本語で要約してください。
- 研究デザイン、対象患者、主要評価項目、結果、結論を含めること
- 臨床的意義を1〜2文で追記すること
- 300字以内でまとめること
[論文のアブストラクトを貼り付け]
ポイントは、誰向けか(薬剤師向け)、何を含めるか(研究デザインなど)、どのくらいの長さか(300字以内) を明示することです。
2. 患者説明資料の作成
患者向けの説明資料を作成する際にも、AIは強力な助けとなります。
プロンプト例:
以下の薬剤について、患者向けの説明文を作成してください。
薬剤名:アムロジピン錠5mg
対象患者:70代、高血圧で初めて降圧薬を処方された方
条件:
- 中学生でも理解できる平易な日本語で書くこと
- 専門用語を使う場合は必ずカッコ書きで説明を加えること
- 「この薬の働き」「飲み方」「注意すること」「こんな症状が出たら」の4セクション構成
- 各セクション3〜5行程度
- 不安を煽らない、前向きなトーンで
3. 症例検討の準備
症例検討会の事前準備にAIを活用することで、効率的に情報を整理できます。
プロンプト例:
以下の症例について、薬学的管理の観点から検討ポイントを整理してください。
患者情報:
- 75歳女性、体重45kg
- 疾患:2型糖尿病、高血圧、骨粗鬆症
- 処方薬:[処方薬リスト]
- eGFR:45 mL/min/1.73m²
以下の観点で整理してください:
1. 腎機能を考慮した用量の妥当性
2. 薬物相互作用の有無
3. ポリファーマシーの観点からの処方適正化提案
4. モニタリングすべき項目
4. 勉強会資料の作成
薬局内の勉強会資料の骨子作成にもAIは有用です。
プロンプト例:
薬局スタッフ向けに「SGLT2阻害薬の適正使用」についての勉強会資料の構成を作成してください。
条件:
- 対象:薬剤師・登録販売者
- 所要時間:30分
- 構成:導入 → 薬理作用 → 適応 → 副作用と注意点 → 服薬指導のポイント → まとめ
- 各セクションのスライド枚数の目安も提示すること
- 実臨床で役立つ服薬指導のフレーズを3つ含めること
プロンプトの高度なテクニック
Few-shot プロンプティング
AIに「例」を示すことで、出力の品質と一貫性を向上させるテクニックです。
以下の形式で、薬剤の服薬指導ポイントをまとめてください。
【例】
薬剤名:ワルファリン
要点:納豆・クロレラ・青汁は避ける。出血傾向(歯茎の出血、あざ)に注意。定期的なPT-INR検査が必要。
【作成してください】
薬剤名:DOACの一覧(ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)
Chain of Thought(思考の連鎖)
複雑な問題を解く際に、AIに「考えるプロセス」を明示させるテクニックです。
以下の処方について、ステップバイステップで薬学的評価を行ってください。
ステップ1:各薬剤の適応と用量を確認
ステップ2:相互作用の有無を確認
ステップ3:患者背景(年齢、腎機能)を考慮した用量調整の必要性を検討
ステップ4:総合評価と提案をまとめる
[処方内容]
利用時の重要な注意点
1. 個人情報を入力しない
患者の氏名、生年月日、住所など、個人を特定できる情報はAIに入力しないでください。症例検討などで使用する際は、必ず匿名化してから入力しましょう。
2. 出力を鵜呑みにしない
AIの回答にはハルシネーション(事実と異なる内容の生成)のリスクがあります。特に以下の点は必ず人間が確認してください。
- 薬剤の用量・用法
- 禁忌・相互作用の情報
- ガイドラインの記載内容
- 論文の引用(存在しない論文を捏造することがある)
3. AIの限界を理解する
AIは「最もそれらしい回答」を生成する仕組みであり、医学的な正確性を保証するものではありません。最新の情報や日本固有の制度・薬剤に関しては、特に注意が必要です。
まとめ
プロンプトエンジニアリングは、医療従事者がAIを業務に活用するための基本スキルです。「具体的に」「役割を与えて」「段階的に」指示を書くだけで、AIの回答品質は大きく向上します。
ただし、AIはあくまで業務を支援するツールです。最終的な判断は必ず専門家である医療従事者自身が行ってください。AIの特性と限界を理解したうえで、日々の業務効率化に役立てていきましょう。